晴雨計
新潟日報の晴雨計(2004/2/5〜4/22)

横型リーダーシップ


                         2004/3/11

ヒーロー型リーダーの下では指示待ち人間が育ち、ピラミッド型組織では効果や創造性より上下意識や内部効率が大切にされ、個人の意欲やチームの力は衰えてくる。多くの古い組織が活力を失っている中で、横型リーダーシップが注目されている。

私が少し手伝いをしている越後長岡藤原塾(長岡商工会議所、隔月次回四月七日)では、経済アナリスト藤原直哉氏を囲み横型リーダーシップや新しい企業文化を共に学んでいる。

先日、聖路加国際病院が偶然撮影していた研修用ビデオを見たが、そこに横型リーダーシップが発揮されていた。

地下鉄サリン事件で廊下やチャペルまで埋め尽くされた六百四十人の犠牲者を治療する医師、看護師と事務員六百人の活躍が克明に記録されていた。混乱した入り口の片隅にさえない白衣のお年寄りがいた。数分後、「外来受付中止、すべての患者を受け入れる」 と決断した当時八十三歳の日野原重明医院長だった。
その後、薬物はアセトニトリルと消防庁通達があったが、医師たちは目前の縮瞳(しゅくどう)やけいれんの症状からそれを信じなかった。

伝達用手書きメモが飛び交う暗中模索の一時間後、松本サリン事件の情報が入った。症状は一致し、チームは農薬中毒用薬剤パムを検討した。薬剤部長はトップの許可なく即断で手配し、パム九千本が東京に向かった。

警視庁のサリン発表以前に医師はパム投与を指示し、患者のけいれんは消え始めた。

 医院長は決して信長型リーダーではない。

救命は根源的ミッション(任務)ではあるが、日々六百人のプロスタッフの中であらゆる情報が豊かに循環し、治療とフィードバックが活発に機能するように腐心し、共に議論していた。さらにチャペルや廊下には酸素や吸引配管を設置し、百年の災害に備えていた。

 ヒーロー型や縦型組織ではスタッフの高い意欲やチームの相乗効果は得られない。混沌として先が見えない現代では、このような横型リーダーシップが求められている。

 



                  志賀恒夫(ロビンアートスタジオ代表)

白山神社の幻影          2004/2/05
二十代と五十代の連帯      2004/2/12
発酵食品の街 ・沼垂       2004/2/19
白洋と息子の絵          2004/2/26
シアトルのスーパー       2004/3/04
横型リーダーシップ        2004/3/11
地蔵堂と良寛            2004/3/18
良寛の墓              2004/3/25
栃尾の貴渡神社          2004/4/01  
庭の黙示              2004/4/08 
黄金の日々            2004/4/15 
良寛と五十嵐一          2004/4/22 
 
 
シンクタンク藤原事務所
BACK